同軸ケーブルを用いたホームネットワーク
家庭内でホームネットワーク(家庭内LAN)を構成する方法には、 通信信号をケーブルで伝送する有線LANと電波で伝送する無線LANがあります。 有線LANとしては、イーサネットケーブル(LANケーブル)を用いる標準的な方式のほかに、 家庭内に敷設されている100Vの電力線を用いてイーサネット信号を伝送する高速PLCがありますが、 更に、TV放送等の伝送に使用される同軸ケーブルを用いて通信を行う方式があります。
同軸ケーブルを用いるホームネットワークは、
家庭内の各部屋に設置されている同軸ケーブル端子に専用の通信モデムを接続し、
このモデムのイーサネットポートにネットワーク機器を接続して、
同軸ケーブルを介してモデム間で通信を行うものです。
同軸ケーブルは外界からの電磁波を遮断し、周辺にある電気機器や電気配線の影響を抑えることができるため、
通信の高速性や安定性に優れている特徴があります。
ケーブルテレビ(CATV)用の同軸ケーブルが各部屋に配線されている一戸建ての家庭やマンションの家庭、及び、
地デジ/BS/CS等のアンテナを設置して複数の部屋に同軸ケーブルを配線している家庭では、
新たにLANケーブルを敷設する必要がないので同軸用モデムを設置するだけでホームネットワークをすぐに構成できます。
同軸ケーブルを用いたホームネットワークは、CATVが普及している米国を中心に利用されており、
専用の通信モデム(アダプタ)が発売されています。
特に、同軸ケーブルを用いたホームネットワークを推進するために2004年に米国で
MoCA(Multimedia over Coax Alliance)
が設立され、規格の策定や機器認証等を行っており、このMoCAに対応するモデム製品が普及しています。
MoCAの規格は2005年12月にVer.1.0、2007年10月にVer.1.1、2009年にVer.2.0が策定され、
MoCA対応製品は2009年には約2千万台が出荷されています(2009年MoCA年次報告より)。
また、機器間相互接続方式DLNAのVer.2.0では、
ホームネットワーク方式としてMoCAが取り上げられています。
日本国内では、MoCA設立の主要メンバーである米国の半導体メーカー
Entropic Communications社が開発したものを日本向けにカスタマイズしたモデム製品
「c.LINK」がホームネットワーク向けにNTT-ME、
NTTネオメイトから発売されています。
CATVの普及に伴い、同軸ケーブルが各部屋に敷設されている家庭が日本国内でも増えており、
同軸ケーブルを用いたホームネットワークの利用が期待されています。
以下では、
- 同軸ケーブルネットワークの概要
- ホームネットワーク向けの同軸モデム
について紹介します。
同軸ケーブルを用いたホームネットワークの構成例
同軸ケーブルネットワークの概要
同軸ケーブルは中心に銅線があり、その周りに絶縁のためのポリエチレンが被せられ、 さらにその外側にアルミニウムが巻かれた構造になっています。 銅線とアルミニウムに電流を流して電気信号を送りますが、外側のアルミニウムが外部からのノイズを防ぎ、 外部へのノイズ発生を防いでいます。また、高い周波数の電気信号を伝送しても信号の減衰が少ない特徴を持っています。 従って、高速な信号を長い距離まで送ることができますので、 テレビ信号やデータ信号を安定して送るのに利用されています。
同軸ケーブルを用いてテレビ放送やCATVの信号を伝送する場合の周波数の使い方は、通常、次のようになっています。
- 10~55MHzの周波数帯:CATVの上り用インターネット接続。
- 90~770MHzの周波数帯:テレビ放送用に使用。(CATVでは、~600MHz)
- 600~770MHzの周波数帯:CATVの下り用インターネット接続
- 1GHz以上の周波数:BS放送やCS放送に使用。
従って、これらの周波数に重ならないような周波数を使用してホームネットワークの通信を行う必要があります。
同軸ケーブルを用いるネットワークは、 使用する周波数が上記のテレビ放送やデータ信号の周波数と重ならないようにしなければなりませんが、 使用する周波数帯によって次の様に大きく2つに分類できます。
高周波数帯を使用する方式
家庭内の同軸ケーブルでホームネットワークを構成する場合は、
CATVが使用するTV放送用とインターネット接続用の周波数やアンテナからのテレビ放送の周波数に重ならないように、
770MHz~1GHzの周波数を使用しています。
同軸通信モデム「c.LINK」は850MHz付近、あるいは950MHz付近の周波数を使用して通信を行っています。
低周波数帯を使用する方式
同軸ケーブルをCATVのインターネット接続に使用しない施設(例えば、ホテル、学校、病院、他)
でネットワークを構成する同軸通信モデムとしては、
55MHz以下の周波数を使用して通信を行う製品が発売されています。
例えば、高速PLCのUPA方式を利用した通信モデムが住友電工から製品化されており、
4~34MHzの周波数が利用されています。
ホームネットワーク向けの同軸モデム
同軸ケーブルを用いたホームネットワークを構成する専用モデムは「c.LINKモデム」
という名前でNTT-ME(NTT東日本地域)、
NTTネオメイト(NTT西日本地域)から発売されています。
「c.LINK」は開発元のEntropic社の登録商標ですが、
このモデムは日本の電波法等に適合するように国内向けにカスタマイズされています。
製品は、c.LINKモデムが2台(ACアダプタ付き)と漏洩防止フィルタ1個がセットになっています。
機器の設置手順
(1)漏洩防止フィルタの設置
まず初めに、外部からのノイズ流入や、TVアンテナから空中への高周波数信号の漏洩、
CATV局側への信号の漏洩を防ぐために、漏洩防止フィルタを取り付けておきます。
一般家庭では、TVアンテナやCATV局からの同軸ケーブルの配線は、まず分配器に接続され、
この分配器から各部屋に同軸ケーブルが配線されています。
従って、以下の写真のように、分配器の入力端子(IN)側に漏洩防止フィルタを挿入しておきます。
(2)モデムの設置
次に、c.LINKモデムを設置する各部屋の同軸端子に同軸ケーブルを用いてc.LINKモデムを接続します。
続いて、各c.LINKモデムのスイッチを入れると自動的に通信が行われてモデム間のリンクが張られるます。
この時、初期設定等を行う必要は特にありません。モデムは最大8台まで設置できますが、
追加する場合も同軸端子に接続してスイッチを入れるだけで自動的に通信ができるようになります。
(3)ホームネットワーク機器の接続
c.LINKモデムはイーサネットポートが4つありますので、各ポートにルータ、PC、デジタルTV、
等々の機器を接続すれば通常のイーサネットLANと同じように使えます。ポート数が足りない場合は、
HUBを接続すればポート数を増やせます。
主な仕様(型番:PN-200-C2E4)
- 通信速度:最大250Mbps(理論値)
- 実効速度:最大100Mbps(物理速度200Mbps)
- 通信距離:最大180m
- 同軸ポート:F型端子2ポート。
1つは壁の同軸端子への接続用、1つはテレビ等への出力用。使用ケーブルは、5C-FB以上を推奨 - イーサネットポート:4ポート(100Base-TX/10Base-T)
- 接続台数:最大8台
- 動作周波数:850±25MHz、または950±25MHz
(良好な周波数を選択するために手動で切り替え可能) - 漏洩防止フィルタ(ノイズ除去フィルタ)の取り付けが必要
(動作周波数の信号の出入りを低減する。製品に付属している) - マスター、スレーブの設定は必要ない
- セキュリティー:DES方式の暗号化技術を採用